2008年9月13日土曜日

二期会オペラ「エフゲニー・オネーギン」を観る

 東京へ出かけたのは、これ(二期会・エフゲニー・オネーギン)を観るためであった。

 チャイコフスキーの代表的なオペラとして、その名は知っていたが、はじめて見るものであった。有名なオペラ演出家コンヴィチュニーの演出(それについての解説はここ)は、このオペラを奇をてらわず、堂々としたドラマとして仕立て上げていて、主な歌い手の力量もあって、じつに聴き応えがあった。群像の動き、歌は非常にドラマティックで、厚みのあるドラマになっていた。

 特にオネーギン役の黒田博は堂々とした風格と貫禄の歌いぶりはさすが。タチアーナ役の津山恵はひたすらな純愛をオネーギンにささげながらも、受け容れられない悩み多き娘時代、公爵夫人としてオネーギンに再会した時、彼への愛を想い起こしながらも、きっぱりとそれを断ち切る凛とした姿への変貌を歌い分け、見事なヒロイン役を演じていた。

 じつにロシアっぽい雰囲気を見事に出していた。それもプーシキン原作の描く、社会的問題に覚醒しつつも徹しきれない一時代の貴族インテリゲンチャー群の生きた時代を。おそらくプーシキンの原作にも、このオペラにも、描かれていない部分があるように思う。このストーリーのままだと、オネーギンは、娘心をもてあそび、友人を裏切った単なる無頼になってしまう。オネーギンはひどい男、タチアーナが可哀想、ということで終わってしまう。しかし、たぶん彼は旧態依然たるロシアの地方社会に安住できず、脱出を模索して、それ故に、愛と平穏な家庭生活をわざとぶちこわして、流浪したのだろう。その部分はポジティブに語られていない。それ故か、観覧後は、ドラマとしての仕上げの見事さに感心しつつも、ストーリーにはいささか釈然としない、複雑な気分が残ってしまった。

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