2008年10月10日金曜日

思い立って旅へ

 われながら、衝動的だな、と思いながら、旅に出た。何であれ、その気になったら、直ぐにできるのが、遊民の特権である。東京での用事から帰ったのが、火曜日の昼過ぎ。にわかに思い立って、翌水曜日から、旅に出ようかと連れ合いに提案してみたら、いいよとの返事。早速宿の手配を開始。ねらった宿は満室で取れないなどの障害はあったが、何とか出かけるめどがその日のうちについた。水曜日朝には、まだ200kmほどしか走っていない新車「アイちゃん」を駆って北へ向かっていた。

 前日買った「まっぷるマガジン・福島」(昭文社)をチラッと眺めて、見当をつけたのが、初日、羽鳥湖の温泉付きペンション。二日目、南会津の湯野上温泉。最初の目的地「はとりこ」を、そこに着くまで「はじまこ」と思い込んでいたほど、にわか仕立ての旅だった。

 結果としては、悪くなかった。あてずっぽうのやり方もなんとかなるものだ。たままた選んだペンションの当夜の客は、われわれ二人だけ。ペンションのほうも、脱サラしてペンション経営十数年のご主人ひとりだけ。そのご主人と酒を飲んで、あれこれ話し込むしまつ。それがけっこう深刻だった。彼の抱えるもろもろの問題、たとえば、そのリゾート開発地へいわば入植した彼の土着の苦労話。それにとどまらず、おしなべてどの地方も抱える過疎対策などの問題などなど。それはまた、機会があったら書くことにしよう。

 翌日はその近辺に大規模に展開しているリゾート施設「レジーナの森」〔うまくいっているのか、どうかまでは見通せなかったが)を一回りしたあと、タイムスリップして、江戸時代の会津街道の宿場町「大内宿」へ。ここは、あらかじめ知らず、旅先で教えられて訪れてみた観光地。聞けば年間220万人もの人が押しかける有名な観光地だそうだ。茅葺きの家屋が並ぶ、奇跡的に残った江戸時代の面影を残す街並みだそうだが、まったくダメ。観光地として知られすぎて〔私は知らなかったが)、あまりに多く人が押しかけ、それに応じて、せっかくの古い街並みが、見せ物となってしまっている。ほとんどすべての家が、お土産屋兼蕎麦屋になっていて、わんさと押しかける観光客に愛嬌を振りまいている。高山や、妻籠のほうがまだましだ。

 ガイドブックで気にとめて出かけた南会津町〔旧田島町)にある「旧南会津郡役所」の洋風建築のほうが印象深かった。午後遅く訪れた私たちだけを相手に、係の女性は、丁寧にこの地の歴史を物語ってくれた。明治初期、朝敵会津を抑え込むために県令として赴任した薩摩出身の三島道庸に、過酷な扱いを強いられた会津の忍苦。遡って天領だった江戸時代の百姓一揆の哀話など。この地は、民主党で今や黄門さん的存在である渡部恒三の地元であった。ほんわかして、ユーモラスなこの人の語り口と出身地との結びつきを、その地に至って実感したのだった。

 今朝は、「塔のへつり」という奇景を、なるほどと見ているうちに、そこへやってきたアジア人らしい若者たちに、吊り橋を揺らすなと文句をつけたのをきっかけに、技術研修生として滞日中の彼らとしばし話したり、遠足にやってきた会津若松の小学生から「おじさん、宮崎駿にそっくり」と、はやしたてられたり。行く先々に、あれこれがあった。帰途のルート沿いの道の駅とか地元物産店に寄り、連れ合いの買いもの、安値の野菜・果物と、珍しい物産(マタタビ、アケビの実など)を、小さな車に満載して、帰ってきた。

 この時期に急遽、旅をする気になったのは、このときを外すと、私と連れ合いの二人のスケジュールからして、しばらく旅行に出るチャンスがないことと、働いている人々が秋を楽しむこれからの時期に、私ら遊民が邪魔をしては申し訳ないという二つの理由からだった。もう一つ、小振りとはいえ、新しく乗りはじめた車が、旅心を誘うのだ。

1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

アクさん
大内宿には04年に行きました。そのころ(それ以前?)からテレビの旅番組で繰り返し紹介されており、加えて昨今の定年族増加により平日でもワンサカ混雑するようになったのでしょう。私には女性の素朴な言葉使いとおいしい地そばがすくいでしたが。

私はJRと会津鉄道を乗り継いで趣のある湯野上温泉駅から徒歩で往復、温泉に一泊した翌日は中山風穴地を経由して塔のへつりまでまた歩きました。風穴地は真夏でも10度ほどの冷風が岩穴から出ていて高山植物が植生している珍しいところです。
そのあと東照宮を43年ぶりに訪ね、小杉放菴
美術館を回って帰りました。

会津といえば、小学校6年生のとき演劇「野口英世」の小林先生を演じた縁があるのですが、会津鉄道の車体に英世の母親が息子の帰国を切なく念じた手紙の一節が書かれているのを読んで、わが身との身上の違いは当然な
がら「子を思う親の気持ち」、「親を思わぬ子の気持ち」に思いを至したしだいです。