2012年7月15日日曜日

7月10(火)-12(水)ツィラータールへの旅、その2


【泊まったホテルのベランダからツィラータール鉄道のSL列車を見る】

ツィラータールは、インスブルックから東へ鉄道で30分ほどのイェンバッハから南方へ、大きく開けた谷です。南端のマイヤーホーフェンまで32キロ。そこまでツィラータール鉄道という私鉄が走っている。1900年開業というから、日本では明治末期、かなり古くから走っているものです。760mmという狭軌の中でもとりわけ狭い軌間長で知られています。見るからに狭い。この路線を蒸気機関車が走っています。小さく可愛い機関車。ここへ出かける2日ほど前に同じイェンバッハから北へ向かうアッヘンゼー鉄道を利用しましたが、その機関車に比べれば、まともな形をしています。一日2往復の蒸気機関車が牽く列車の代金はディーゼル機関車の牽く普通の列車料金の倍ほどです。それでも人気があるらしく、普通は2、3輌の客車を牽くのですが、蒸気機関車が牽く列車では6、7輌編成で、中には天蓋なしの貨物車両みたいな展望車もついていました。

さて、これに乗って、ツェル・アム・ツィラーまで。広い谷ですが、谷ですから、両側に山が連なります。最初のうちはなだらかな丘のような山で、山頂近くまで牧草地が広がっていました。一つ一つの牧草地が防風林のようなもので仕切りがついているのが目立ちました。ここは俺の領分だと、自己主張しているみたいです。

ある駅の周りは木材の集積場になっていました。丸太のままきちんと切りそろえられたもの、製材されたものなどが、広い敷地いっぱいにうず高く積み上げられていました。この辺りの山林どこにもあるツィルベ(霜降り松)です。家屋も家具などもこの材料で作られています。香りがとてもいい木材です。林業が結構繁栄しているなと、ふと日本の林業の現状を思いました。

ツェル・アム・ツィラーに着きました。まず予約したホテルに確認に行きました。駅からすぐの線路沿いにある、新しくて感じの良さそうなホテルでした。あとで来ますと、ローゼンタール・バーン(ロープウェイ)に向かいました。山の麓の発着場まで15分か20分ほど、結構歩きます。ロープウェイは、路線によって色々なタイプがあります。ここのはゴンドラでした。8人乗りの小さなゴンドラが沢山宙吊りになって、上に向かっています。ほとんどが空でした。今にも雨が降り出しそうな天気でしたから、こんな日に登山をしようという人は少ないのでしょう。

私たちも天候が心配でしたが、スケジュールを組んだ以上、行くしかありません。2段に乗り継いで、1744mまで行きました。途中で雨粒がポツポツとゴンドラの窓に降って来ました。やれやれ。終点に降り立ってみると、雨はざあざあと音を立てて降っています。雨対策はしてきました。さっそくノースフェイスのレインウエアに着替えました。雨傘にはL字金具でカメラを取り付け、傘とカメラを取り付け一体で持てるようにしました。

頂上駅から1910mのクロイツヨッホヒュッテを目指します。ガイドブック("Walking Easy in Swiss and Austrian Alps 4th ed." by Chet Lipton; iUniverse 2007刊)には1時間ほどの登りで、途中ツィラータールのパノラマ展望が楽しめるとあります。標高差が約170mほどあり、私たちの足ですから、2時間は見るつもりでしたが、雨は土砂降りだし、眺望は楽しめようもなし。15分か20分ほど歩いたところで、引き返すことにしました。その時の妻の写真が前回分の文末に載せたものです。私たち以外にも戻ってくるグループを見かけました。

幸い頂上駅近くにレストランがあるのは、確認していました。そこでゆっくり休み、あとはその時の天候次第と考えました。レストランにはたくさんの登山者がひしめいていました。片隅に席を見つけ雨具を脱ぎホッとしましたが、ウエイトレスに何度も、合図しましたが、注文を取りにやって来ません。忙しいのだろうと待つことしばし、おかしいなとメニューを見ると、"Selbstbedienung" とあります。セルフサービスだったのでした。カウンターに行きビールと妻にはラドラーを取り、料理を注文して来ました。料理はあとで届けるという仕組みでした。ちなみにラドラーRadlerは、チロル地方独特の飲みもので、ビールとレモネードを半々程度に混ぜたもの、アルコール度数は2%と低く、飲みやすいし、ハイキング途中に喉を潤すにはとてもいいものです。

ゆっくりと食事をしているうちに雨は上がりました。しかし、もうハイキングをやる気は失せていました。降りて、早めにホテルに入り、ゆっくり休み、ツェル・アム・ツィラーの夜を楽しむことにしました。

ゴンドラで降りてみると、もうすっかり晴れ上がり、気温も上がって、歩くルートに日陰がほしいほどです。しかし、ホテルまでの道は牧草地の中を通過し、求めるべき日陰もありません。なんたる皮肉。上で雨に打たれ、ギブアップして帰る道は陽射しで溢れかえっているとは。


【下に降りたら、こんな風にすっかり晴れあがっていた。恨めしい天気】

チェックインしたホテルは、香り高い木質の建物で、モダンなインテリアデザインに凝った建て方です。案内された部屋は、二階にあるスイート・ルーム。この宿は、長期滞在者を主な対象にしているらしく、フルファーニッシュのキッチン付きリビングと寝室がセットになっています。正面に面したベランダからは道路を隔てて線路があり、ツィラータール鉄道が走っています。部屋に入って間もなく、SL列車が走るのを見ました。

夕方散歩に出ました。線路の向こう側が街の中心街のようです。ホテルやレストランが軒を連ね、それぞれ各階のベランダがゼラニュウムで飾られています。それが赤や白だけでなく、濃淡のある紫などもあり、飾り付けを競い合っているようです。

宿のベランダから見えていた尖塔のある教会に入ってみました。内部は明るく、美しい天井画などで飾られていました。主祭壇、脇の祭壇とも、見事です。豊かな村落共同体で支えられている教会なのでしょう。教会の周りの空き地はぐるり全部墓地で埋め尽くされていました。墓碑は画一的でなく、それぞれ個性的に形が工夫されています。多くの墓碑に故人の写真が埋め込まれているのは故人を思い出させていいですね。これはスイスでも見たものです。墓碑前の区画は小花壇になっていて、どれも思い思いに花で飾られています。亡くなった人を思い、頻繁に訪れては手入れをしているのでしょう。家族が代々村落を離れず住み着いていることの証と言えます。この活きている墓地を日本のそれと対比して色々と考えてしまいました。祖先を思う心情の普遍性、時代とともに変わってしまった社会状況などをです。


【ツェル・アム・ツィラーの教会墓地の様子】

夜は、この散策時に見かけた民俗音楽のライブのあるレストランに出かけました。前に書きましたが、このツィラータールが発祥の地と言われるチターの奏でる音、そしてこの谷で歌われる歌唱を、ここに一泊だけの夜に聞いてみたいと願っていたのでした。とても陽気なものでした。4人の楽士が、演奏し、歌い、時には万才めいた語りも交えて、満席の客席との掛け合いなど、分かりようがないのですが、その明るさだけは印象的でした。期待のチターは脇役で独立した演奏がなかったのは残念でした。「第三の男」での特異な用いられ方と、この谷の音楽に繋がりを見出すのは困難でした。



【レストランでのライブミュージック、右がチター、小型のハープだが低音域】

2 件のコメント:

ほっとあいず さんのコメント...

Do more!!

1枚目の「写真」をアップすると、客車がSLの前側に付いている!? ということは、バックで走る? or 後ろから押す?の、ドチラかですね

アクエリアン(略称:アク) さんのコメント...

列車は右向きに走っています。機関車が逆向きについています。これは機関車の向きを変える転車機(以前機関区には必ずあったもの)が始発駅にも終着駅にもないため、往きは正常の向きで、帰りは逆方向で列車を牽引するということになります。