2008年11月5日水曜日

オバマの日

 アメリカ大統領選の開票速報をテレビでずっと見ていた。午前10時頃から始まり、午後3時ごろまでずっと目を離せなかった。NHKのBS1は、時折のBSニュースによる中断があったが、アメリカのテレビ局ABCの中継とNHKの解説とをずっと放映した。一方で、パソコン画面にNYTネット版の大統領選速報画面を出して、見守った。ABCの方は、出口調査にもとづいてどしどし当確を出していく。NYTは、選管の集計を報じるため、確定数しか報じない。ただしこちらは詳細に数字を見ることができる。画面を切り替えると、郡(county)単位に赤〔共和)、青〔民主)を染め分けた図まで出る。

 11時頃ABCは、ペンシルヴァニアをオバマが取ったと報じる。マケインが一つも落としてならない激戦州の一角がはやくも崩れた。そのころのNYTの集計では開票率は10%にも達していなかった。12時すぎ、昼食をとっているうちに、オハイオをオバマが取ったとの報。オハイオを落として大統領になった人はここ何回かの大統領選でないという。これでオバマの当選はほぼ決まりだった。各州ごとの集計をNYTでみているとヴァージニア、フロリダで、僅差ながら、ずっとオバマが勝っている。ABCはすでにヴァージニアはオバマとしている。他の州でもオバマの青が、共和党の赤の牙城を浸食していく。過半数270まであと僅かである。対するマケインは130を超える程度。午後1時直前、BS1はニュースに切り替わる。その直前にBSの解説者は、速報が再開されたときには、オバマの当選が決まっているでしょうと告げ、15分後にと、速報を中断する。

 午後1時になったとたん、ニュースの字幕に速報でオバマ当選決定の文字が出た。カリフォルニアの開票時間を待って、開票率0%でABCはカリフォルニアでの当確を報じ、オバマが次期大統領に確定とした。歴史的瞬間だった。間もなく接戦だったフロリダもオバマの青色になった。テレビはアメリカ各地でオバマ当選を喜ぶ人々の映像を伝えてきた。NYのタイムズスクエアで、ハーレムで、シカゴの広場で、人々は抱き合って、喜んでいる。静かに涙を流す老黒人男性の表情が印象的だった。すぐにNYにいる知人にメールを送った。彼女とその友人たちが、どんなにかこの日を待ち望んでいたことか。現地時間では夜の11時を過ぎているが、きっと起きて速報を見ていることだろう。

 間もなくアリゾナ州フェニックスでマケインの敗戦演説が始まった。つい今しがたオバマに電話をして「おめでとう」を言ったと切り出した。マケインの演説は潔かった。激戦を闘った後、相手を讃え、みな同じ目的、この国を変える、ために一つになろうと呼びかけた。じつに見事な演説で、この大統領選中のマケイン演説の最良のものと思えた。きっと彼は、もう何日も前に敗戦を覚悟して、この演説を準備していたのではないかと思えるほどだった。

 2時前、シカゴの広場の特設会場でオバマの勝利演説が始まった。6万数千人が集まっているという。ものすごい人の数だ。オバマの演説台の両側には、防弾用の強化ガラスの壁が高く立てられている。広場を囲むビルの窓からの狙撃からオバマを守るためだという。オバマは夫人と二人の娘と4人で演台に歩み寄った。二人の娘は赤と黒のドレス、夫人は大胆に赤をあしらった黒のドレス。憎い演出だ。いよいよオバマの演説は始まるというのに、BSは定時のニュースを流しはじめる。NHK総合に切り替えると、こちらでオバマの演説を生中継しはじめている。演説は前半はマケインへの謝辞、家族と協力者への感謝など定型的だったが、後半に、南部にいる百何歳かのお婆ちゃんが、この百年間にどんな変化を眺めてきたかを顧みながら、自分が大統領になったことの歴史的意義を語り、大いに聞かせるものだった。演説後、登壇したのは大統領と副大統領バイデンの家族だけだった。半数以上がオバマ関係の黒人だ。互いに喜び合っている。印象深い演出だった。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

アクさん

文中の「静かに涙を流す老黒人男性」はJesse Jackson師のことをおしゃっておられるのだと思います。
長年黒人の市民権運動をリードしてきた彼にとって黒人大統領の誕生は感慨もひとしおで自然に流れた涙であったろうと私も印象深くみておりましたが、ブログ[Jesse Jackson is crying]
によればそこには複雑ないきさつが含まれていたようです。

アクエリアン(略称:アク) さんのコメント...

そう。その後、ジャクソン師であることを知りました。また、歴代の黒人運動家キング牧師、その直弟子ジャクソンと、オバマとの説法スタイルの決定的違いを指摘した論説も読みました(朝日08/11/06、生井英考)。キング、ジャクソンがホットに、"We"を強調し、黒人としての差別感と抗議を主張するのに対して、オバマはクールに、不特定多数に向けて"You"を多用して、差別を超えた統合を訴えた、その違いに注目したものでした。それが時代の変化であり、要請なのでしょう。ジャクソン師にとっては感慨深いものがあったと思います。