アメリカで新聞の将来が危ぶまれている。紙媒体の日刊紙を止め、ウエッブ上(オンライン)だけとした新聞。倒産した新聞社(L.A.Times と Chicago Tribuneの親会社が倒産)。経費節減のために記者の数を減らしたり、支局を閉鎖している新聞社など、どこも先行きを案じているらしい。たしかに日刊紙の印刷数は減っている(08年の場合、主要6社の9月までのデータで、2-7%減)。一方ではオンラインの読者は増えている(08年間、6-99%増)。新聞紙面での広告収入は、ここ数年ずっと漸減傾向で、いまでは年率20%で減っている。それをオンラインの広告収入で補ってきたが、この不況が来て、こちらの方も減り始めた。このままでは新聞社が経営不振に陥り、新聞が無くなるとか、ジャーナリズムの質が維持できなくなるおそれが出て来た。オンラインを含めれば、読者は増え、記事はよく読まれているのに、新聞社は経営不振に陥るというおかしな状況に陥っている。
雑誌TIMEで長年働き、最後には編集長を務め、CNNの経営を担ってたりした W.Isaacson(現在 Aspen Institute 会長)が、どうしたらこの状態を救えるかについて提言をしている("How to save your newspaper")。彼は、「広告モデル」でも「契約者モデル」でもない、第3の道として、オンライン上で一記事ごとに少額の課金(10セントとか、25セント程度)をするシステムを勧めている。
このブログの二つ前のエントリの中で、同様のテーマを話題にした(「新聞、ネット事業模索(09/2/08 社会)」)。そこでは、欧米の新聞社の取り組みに比べて、日本の新聞社のオンライン上の記事掲載は遅れているとし、「新聞社はこれからのビジネスモデルを見定めるチャンスではないか。『出し惜しみ』、有料契約は成功しないと思うが、どうだろうか。」と私は書いた。しかし、Isaacsonの記事で欧米の新聞社の苦境を知ると、そうも行かないなと考え直した。
オンライン上の広告収入で新聞社が成り立ち、読者が新聞を無料で読めるというビジネスモデルは不健全だと、Isaacson は主張する。内容のいい記事には対価を払うことが、いいジャーナリストを育てる、というのだ。広告を出す企業の方だけを気にしたジャーナリズムは独立性を脅かされかねない。それは、日本でも新聞社やテレビ社について、問題を感じることがあり、分かる主張だ。現在のインターネットでは、良いコンテンツを創る社なり人が収益を得るより、検索エンジンを提供したり、ポータルサイトを運営したり、プロバイダー業を営む社が、収益を上げている。これはたしかにおかしい。
さりとて、オンライン読者に契約してもらって定額を課金するシステムはよくない。ブログなどで新聞記事をリンクしても、課金を払っている人しか読みに行けないことになる。ハイパーリンクという、現在のインターネットの根幹をなす情報システムのメリットを損なってしまう。
そこで、Isaacson が提案するのが、マイクロ・ペイメント(少額支払い)の仕組みだ。記事を読みにいくたびに、自動的に少額が支払われるような仕組みである。現在、アップル社の iTunes が音曲1曲あたり99セント(日本では115円)を支払わせているのが一つのモデルになる。支払い側にも集金側にも、もっと便利に気軽に使えるオンライン上の支払いシステムが構築されれば、これからそのような方向へ進むのではないか。私は月額500円とか払って、あれこれの新聞社と契約するのには乗り気でないが、1記事10円、20円程度なら、気軽に読みにいくし、それが良いジャーナリズムを支えるなら結構なことだ。
この少額支払いシステムが普及すれば、Isaacson は、他のネット上のコンテンツにも適用可能になるのではないかとしている。良質なブログ記事、市民ジャーナリストのニュース配信、テレビ番組、アマチュアの動画や音曲、ゲーム、料理のレシピなどに適用されよう。私は「田中宇の国際ニュース解説」のメール配信を受けているが、4月から有料となり、半年6000円の購読料を必要とするとのお知らせをもらった。良質な解説記事に対価は当然だとは考えるが、もともと配信は受けていても、熱心な読者ではない。そんな高額の購読料を払うつもりはない。これなどもネット上の記事を小分けして少額課金するならば、テーマ次第で読みにいくだろう。
ついでに、日本の新聞社のネット配信についての取り組みを、ニフティ配信の@niftyビジネスから紹介しておく。
・【産経新聞】産経NetView 月額315円(紙面そのものを配信、直近1週間分までをさかのぼって読める)から
http://www.nifty.com/netview/index.html
・【朝日新聞】asahi.comパーフェクト 月額525円から(全紙面ではなく、ニュースダイジェストか、速報ニュース)
http://www.nifty.com/asahi/index.htm
・【毎日新聞】毎日デイリークリック PLUS 月額1019円(これもニュ−ス中心のようだ)
http://www.nifty.com/mdcplus/index.htm
・【読売新聞】ヨミダス文書館(新聞の過去記事、コラム、書評など
http://www.nifty.com/yomidas/index.html
いずれも、契約者課金システムであるし、全記事でなかったり、期間の制限があったりする。どれだけ契約者を獲得できるだろうか。Isaacson 提案のシステムは参考になると思うがどうだろうか。
2009年3月4日水曜日
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