(朝日新聞 09/2/24-3/3)
・市場依存 危機生んだ(09/2/24 社説面 アマーティア・セン氏に聞く)
- アマーティア・セン(米ハーバード大学教授、ノーベル経済学賞受賞者)は経済問題に倫理的側面を重視した理論を立てた人。「今の問題のほとんどはグローバル化自体よりも、ほかの事情による。政治力、所有物、経済手段などの巨大が不平等が世界に非対称性を生みだしている」。「危機の原因もグローバル化そのものはなく、米国の経済管理の誤りだ」。「市場経済体制はいくつもの仕組みによって動いている。市場はそのひとつに過ぎない」。「市場の利用だけを考えて、国家や個人の倫理観の果たす役割」を軽視あるいは無視することが問題だ。新自由主義(きちんとした定義のない用語だが)は、その役割を否定したために「人々を失望させる非生産的な考え方」に陥った。レーガン元大統領は「政府は問題の解決策でなく政府こそが問題だ」といったが、「政府は解決でもある」。「国家は、金融機関の活動を抑制する点でも重要だ」。「米国では金融機関への規制をほとんど廃止したので、市場経済が混乱に陥った」。規制緩和が非常によいことだと見られてきたが、「その考えには途方もない混乱があった」。「市場にはできることもあればできないこともあるし、国家が引き受けるべきこともある。こんな基本的なことが無視されてしまった」。経済危機が、過度の市場依存の見直しを求め、この人の説くことに耳を傾けさせている。
・オバマ政治 1ヶ月(09/2/26 オピニオン)
- 3人の識者がオバマ政治の最初の1ヶ月を評価している。
プリンストン大学に滞在中の慶応大准教授・細谷雄一は「修正続け成長 国民に自信」で、オバマはよくそう思われているようだが、「決してポピュリストではなく、むしろその対極のように思える」とする。政策運営は手堅く、国民に語りかける言葉は慎重だ。「これほどまでに冷静で言葉を大事にする政治指導者も珍しい。まるで国民の熱気を鎮めようとするかのようでもある」。彼の姿勢を「明るいプラグマティズム」と呼んでいる。誠実だ。「厳しい現実を率直に語り、自らの能力の限界も冷静に認識する態度からだ。解決が難しい問題については率直にその困難を国民に語る。人気取りとは正反対だ」。勤勉だ。学習能力が異様に高い。当選以前には敵陣にいた人を用い、具体性に欠けていた「外交安保に関する発言は、格段に質が向上している」。「常に前向きで、修正しながら成長する大統領を持ち、今のアメリカ国民は限りなく自信に満ちている」。
東大教授・古谷旬は「革命的変化なるか未知数」で、いきなりの経済危機のなかで「諸課題に明確な優先順位をつけて」「あらゆる手段を適宜使い分けて」「「政権内の分業体制が明確にされて」、オバマは「最高司令官として、危機対応の立案と実行の全過程に目を配り」「素早くかつ安定的に政策を打ち出している」と評価している。しかし「共和党との超党派的協力関係の構築」に失敗し、「『大きな政府』対『小さな政府』といった体制選択的な対立構図を引きずっている」。そのマイナスを補っているのは、オバマ政権に対する60%超の高支持率である。「米国史には、制度の根幹が改められたわけではないのに、その人の登場によって、政治行政のルールが大きく変わり、革命的な変化がもたらされるような大統領がときどき現れる」。「ニューディールの推進者フランクリン・ローズベルト」、「『小さな政府』を目指した新自由主義者ロナルド・レーガン」らがそれ。オバマもそのような大統領になるかは今のところ未知数だが、期待できる。
池上清子は国連人口基金東京事務所長という立場から「『国連回帰』は勇気を与える」と書いている。国連関係者の多くは「アメリカが戻ってきた」と喜んでいる。国連人口基金(UNFPA)への資金拠出を、オバマはさっそく再開したことなどからだ。ブッシュ前大統領は、この基金が「中絶の促進に関与した」として、拠出を拒否してきた。全くのぬれぎぬだと、米国務省、米国議会などさまざまな調査団が指摘したが、態度を変えなかった。「価値観の対立にとらわれず、現実的な解決を目指すオバマ大統領の姿勢は、米国内での政策転換のみならず国際的にも大きな影響を与えるに違いない」と期待している。
・オバマ大統領施政方針演説 焦点は(09/3/26 社説欄ほか)
ー 経済危機に関して、景気対策:7870億ドル(約76兆円)、金融安定化計画(不良債権対策など):想定規模2兆ドル(約194兆円)、住宅ローン対策:2750億ドル(約26兆円)。規模の大きさと速さで勝負。ただし議会は渋い。
- 外交安保。「テロとの戦い」との用語が消えた。最初の成果はグアンタナモ収容所の閉鎖決定。
- 気候変動。排出量取引による二酸化炭素削減と、風力・太陽光など再生可能エネルギーの技術開発など。産炭地出身の民主党議員の賛成が得られるか、議会の動向次第。
・歯科医療費 改定幅超す伸び(09/2/27 政策)
・医療の値段「保険村」の闇(09/2/27 経済)
- 08年上半期の歯科診療費の伸びが、07年末に決まった診療報酬引き上げ幅を大きく上回った。関係者の言「歯科医が診療報酬を請求するのに融通が利きやすい内容になった」。改訂では歯科全体の伸びを0.42%となるよう、診療項目ごとの配点を決めた。ところが、実際には08年の上半期で前年同期比3.4%の伸びとなった。請求基準を緩めた結果「患者に見えぬようにひねり出す」「水増し請求」が可能になったらしい。隔年に行われる診療報酬改定作業が、「密室」での政治的な利害調整作業であることが問題とされている。
・かっこう悪い卵たち(09/2/25 文芸時評 斉藤美奈子)
- 斉藤美奈子は、村上春樹が嫌いらしい。評判のよかった村上春樹のエルサレム賞受賞演説(文藝春秋 4月号に、受賞スピーチ日英全文と「僕はなぜエルサレムに行ったか」との村上春樹インタビューが載っている)のさわり、『もしここに硬い大きな壁があり、そこにぶつかって割れる卵があったとしたら、私は常に卵の側に立ちます。そう、どれほど壁が正しく、卵が間違っていたとしても、それでも私は卵の側に立ちます。』について、「ふと思ったのは、こういう場合に『自分は壁の側に立つ』と表明する人がいるだろうかということだった。作家はもちろん、政治家だって『卵の側に立つ』というのではないか、卵の比喩はかっこいい。総論というのはなべてかっこいいのである」と書いている。エルサレムへ行って、ペレス大統領などのお歴々を前にして、その表情がこわばってくるのを見ながら、このようなスピーチをした村上春樹の勇気を、私は買いたい。また受賞を拒否するより、現場を見、メッセージを届けることの方がはるかに有効であったと思う。卵の比喩は、村上らしい精いっぱいの工夫だった。それを「総論はなべてかっこいい」というのはどうか。作家として出発して以降今日にいたるまで、村上は、日本の文壇から白い目で見られ続けてきたが、文壇の相変わらぬ閉鎖性を見せたコメントだったと思う。
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