2009年1月19日月曜日

自民党の自然死、SIGHT 09冬号

 ロック音楽評論家・渋谷陽一が編集している総合雑誌SIGHTの最近号が面白い。編集後記に渋谷がこんなことを書いている。昨年11月初旬に特集のテーマ『自民党は自然死を待つのか?』を決めた。かなり先見性のあるテーマのつもりだった。内容を詰めているうちに、あれよあれよという間に政治の実態がタイトル通りに進行してしまった。今ではこの特集内容が当たり前と受け止める人が多くなってしまったのではないか。「正直、自民党が、この2ヶ月の間に、ここまで坂を下るように劣化するとは、僕たちも思っていなかった」と書いている。

 テーマの「自然死」はどぎついが、そこに込められているのは、麻生首相の人物とか言動とか、内閣や官邸の人選とか、そういうたまたまのことが今日の事態を招いたのではなく、自民党そのものが歴史的使命を終え、自然死を迎えつつあるということだ。現在私たちが見ているのは、「政局」とかいうものではなく、戦後政治を担ってきた自民党という巨大政党が崩壊し、そのあとに何か新しい統治構造が出現するという大変革であるということだ。

 特集は三つのインタビューで構成されている。田中秀征、内田樹、上杉隆の3人が個別にインタビューに応じている。それぞれかなり長いもので、じっくり読ませる内容になっている。この欄で紹介するのはしょせん無理だが、さわりと思える部分をまとめてみよう。

 田中秀征のインタビューは「麻生内閣崩壊と自民党政権終焉を語る」という題。政界のインサイダーとして、自民党の自然死をとうの昔に予見していた人だ。自民党政権は何度も腐敗して問題を起こしてきたが、腐敗はまだまし。今や「劣化」してどうしようもなくなっている。車の運転に喩えている。これまでは酔っぱらってよたよたしても車の運転はしっかりできていた。今は、酒を飲まず(麻生さんは毎晩バー通いだが)、真面目に運転しようとしても、運転が下手で、しばしば事故も起こす。そんな運転手しかいなくなったと。すごい喩えようだ。じゃあ、民主党になったらうまくいくか。国民は民主党になったらどうなるかまで考えていない。しかし、とにかく政権を任せてみようというところまで来ている。田中は、政権交代で、日本の政治は明らかに前進するだろうと期待を持っている。石橋湛山は、終戦の日に「日本の将来は前途洋々たり」と言った。田中は今そういう心境だと結んでいる。

 「疑似二大政党制は終焉を迎え、新たなる『55年体制』がうまれる?」というタイトルのついたインタビューで内田樹の語っていることは、この人らしいひねった見方だ。特集の趣旨に反して、自民党「的」政治が今後も続くとしている。日本人の意識も、政治風土も、そう変わりっこないだろうと、この人は考えているようだ。だから今起こっていることは、大したことではなく、かつての自民党の中の福田派と田中派との争いの継続に過ぎない。民主党というのはかつての自民党田中派の政党。これに対して自民党は福田派の政党。このところずっと福田派が、強者が先導して引っ張るという政治をしてきたが、うまくいかなくなった。これから田中派的弱者救済のバラマキ政治を民主党がやることになると。両者は大連立して一つの政党になる。これとは別に観念政党が必要で、共産党と社民党などが一緒になってできる。その両党による55年体制の復活を予測している。そんなことはない、政策ではっきり色分けされた二大政党が出現するのではないか、といいたくなる。ところがこの人は、いろんな考えの人が混在する政党こそが、日本的で日本人の好みに合っているという。

 「自民党はすでに死んでいる」という過激なタイトルのついたインタビューで上杉隆は、麻生政権をつくったのは、視野狭窄に陥っている自民党とそのまわりの政治メディアだ、作られた虚像であって、支持率が落ちた現在が実体に近いという。今年09年は、政治、行政、メディアの構造が基本的に変わる年になるだろう。民主党が主張している特別会計を含む全予算の総組み替えが、日本の政官のシステムを変革する。財務省などの官僚はすでにそういう方向に動き出している。これによって霞ヶ関のシステム全体が変わる。メディアも肥大化しすぎているから、この経済危機の中でスリム化せざるを得なくなり、大きく変わる。もちろん短期的にはめちゃくちゃになる。国民は政治に絶望というか、諦めに近い気持ちを持っていて、民主でも自民でもいい、まともな政治をしてくれ、と思っている。自民党の大部分には、この大きな変革の時期が間近に迫っているとの危機感がない。しかしとうの昔から危機感を抱く人が少数ながらいて、その数が日に日に増えている。

 この雑誌にはほかに「オバマと金融危機を正しく読む」(藤原帰一、小野善康とのインタビュー)、高橋源一郎、斉藤美奈子らによる「ブックオブザイヤー08」の選定座談会(50ページもの)、北野武、吉本隆明の連載インタビューなどがぎっしり載っていて、お値打ちもの。

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