2015年8月15日土曜日

戦後70年安倍談話を読んで

 読んでみて,なかなか良くできている、というのが率直な感想だ。新聞その他には、「引用・間接表現(お詫び、侵略、植民地支配などのキーワードは自らの言葉でない)」「主語がない」、「村山談話がきちんと継承されていない」、「バランス重視(安倍首相らしさがない)」、「妥協の産物(公明党への配慮)」などの批評の言葉が並んでいる。そのとおりだと思いながらも、これで良いと思えた。
 談話の草案は有識者会議がかなり突っ込んだ議論をして作り上げた。草案について党内の様々な人の意見を聞いた。公明党とトップ会談をした折、安倍首相は避けたかった「お詫び」の文言を入れるよう注文が付いたらしい。そんなことがあった上で出来上がったものだ。どの方面からも激しく批判されないですむものになったのは当然だし,それで良かったと思う。
 安倍色を出して村山談話を書き換えようというのが、もともと首相が考えていたことだったと聞く。それにしては「らしさ」がほとんど見られない、バランスの良いものが仕上がったと言える(後ほど少し問題点を挙げるが)。最近の安保法制の国会審議でのつまづき、それを反映しての内閣支持率の低下(逆転)なども影響しているのだろう。
 私は,これを安倍首相個人の意見というより、日本人の大部分が受け容れられる最大公約数の考えを表明した文書として読んだ。談話の後半,未来志向の部分で、「私たち」が主語になっている。それは、内閣でもないし,政治家でもない、私たち日本人のことだと読める。「私たちは、・・・を、この胸に刻み続けます」という言葉が5回繰り返されている。日本人としての覚悟であり、国際約束だと読んだ。
 それでも、少し問題を感じる部分はあった。
 まず、歴史認識。100年以上前に遡り、西欧諸国の植民地化政策がアジアに及んできたことから説きはじめる。日本が戦争への道を辿ることになった原因はそもそもここにありと言いたいようだ。日露戦争での勝利は植民地支配に反対するアジア・アフリカの人々を勇気づけたという。その流れで,日本が太平洋戦争に至る経緯は、反省の気持ち半分、あとの半分は必然であったかのように日本は、孤立感を深め、外交的、経済的な行き詰まりを力の行使によって解しよみました国内の政治システムはその止めたりえなかった」と。戦争への道は,軍部の暴走を、政治が(ということはマスコミ、ひいては日本国民が)許してしまったことにあるのではないか。
 次に、「お詫び」について。「我が国は、先の大戦における行いについて、繰り返し、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明してきました・・・」と、これまでの内閣の反省の言葉を要約したあと、「こうした歴代内閣の立場は、今後も、揺るぎないものであります」としている。これはたしかに「間接表現」だ。安倍首相としては「お詫び」という言葉を入れるとしても,せいぜいこういう文脈でしかできなかったのだろう。
 問題なのは,「お詫び」を首相談話に書くとしても、これっきりにしてほしい、今後繰り返して「お詫び」という文言を談話に書きたくないと,安倍首相の本音をちらっと言っているところだ。

日本では、戦後生まれの世代が、今や、人口の八割を超えています。あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません。しかし、それでもなお、私たち日本人は、世代を超えて、過去の歴史に真正面から向き合わなければなりません。謙虚な気持ちで、過去を受け継ぎ、未来へと引き渡す責任があります」

と書いている宿命を背負わせてはなりません」のところは日本語には主語がない英文では “We must not let our children ・・・” とあるこの”We” は誰なのだろうかここは安倍首相の願望なのだと考えられるお詫びは今回限りにしてほしいと言っているようだでもそれだと先に引用した「こうした歴代内閣の立場は今後も揺るぎないものであります」とも矛盾するしすぐ上で引用したパラグラフの後半しかしそれでもなお・・・」の中身とも相反しているように思う安倍首相は謝罪に言及するのは今回を最後にして今後は「過去の歴史に真正面から向き合う」程度にしてほしいといいたいのだろう
 これでは文書全体に誠意が感じられなくなってしまう。その程度の「お詫び」文言で対中、対韓関係が今後軌道に乗るのなら,それで談話の役割は果たせるのだろうが、対韓関係では「慰安婦問題」が重くのしかかってくる。この問題は、日韓平和条約で総て片が付いているはずという、政府が繰り返している理屈では解決不能と考える。この問題については、政府がはっきりとお詫びし、何らかの具体的補償をして解決すべきだと,私は考える。軍が強制的に関わった証拠がないというのは,実質を見ていないと私は考えるから。

 首相談話後の日韓関係の展開に注目していきたい。

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