2015年8月5日水曜日

軽水炉使用済み燃料からプルトニウム原爆ができるか 2.  ー 米 政 府 の 公 式 発 表 ー

 原子炉級プルトニウムを使って米国が実際の核実験を行ったことは、さまざまな文献で言及されており、その信憑性が高いと、前回書いたが、その公式発表ペーパーを入手した。

Additional Information Concerning Underground Nuclear Weapon Test of Reactor-Grade Plutonium
U.S. Department of Energy, Office of the Press Secretary, Washington, DC 20585

で、ネット上に公開されている。以下である。 公開の日付は文書にはないが、 引用文献をみると、June 27, 1994であるようだ。

以下に日本訳を示す。

『原子炉級プルトニウムの地下核兵器実験についての追加情報』
アメリカエネルギー省・報道官室(June 27, 1994)

 エネルギー省は、原子級プルトニウムを核爆発物に用いて、1962年にネヴァダ試験場で行われた地下核実験について、追加的情報を公開する。

【主要点】
・兵器級プルトニウムの代わりに、原子炉級プルトニウムを核爆発物として用いた核実験は、1962年に成功裡に行われた。
・爆発出力は20キロトンを下回った。

【背景説明】
・この試験は、原子炉級プルトニウムを核爆発性物質として用いる可能性についての核設計情報を取得するため行われた。
・この試験により、原子炉級プルトニウムが核爆発物として使用できることが確認された。この事実は、1977年7月に機密解除(公開)された。
・この追加情報を公開するのは、商用発電炉の使用済み核燃料を再処理して分離される原子炉級プルトニウムに関連する核拡散問題に公衆の注意を喚起することが重要であると考えられるからである。
・合衆国は広汎な核実験データを保持しており、核兵器開発の今後の可能性に十分な見通しを持っている。これらの情報と今回公表する低出力試験結果とを結びつけて予測すると、原子炉級プルトニウムで核兵器が製造できることは明らかである。
・1970年以前には、プルトニウムの等級を定義するのに二つの術語しかなかった。兵器級(Pu240の含有率7%以下)と原子炉級(Pu240の含有率7%以上)であった。1970年代の初頭、核燃料級(約7%から19%のPu240)という用語が用いられるようになり、原子炉級は19%超のPu240を含有するものに用いるよう変えられた。

【公表による社会的便益】
・エネルギー省長官の情報公開方針の一部として、エネルギー省は原子炉級プルトニウムを用いて1962年に行われた地下核実験に追加情報を公開した。これにより、アメリカの公衆は、使用済み核燃料再処理により分離可能な原子炉級プルトニウムの不拡散についての議論にとって重要な情報を持つことになる。また国際的な保障措置の重要性に気づくことだろう。この情報を開示することは、他国が同様な試験情報を持つなら、それを公開するよう促すことだろう。
・本情報は、国際社会において分離された原子炉級プルトニウムの不拡散管理体制をどうするかを決めるのに、有用であろう。また国際的な保障措置について要請される事項を確定し、補強するのに有用であろう。
・この情報は原子炉級プルトニウムが核兵器に用いられる潜在的可能性について他の場でなされている間違った主張を正すことになろう。

【主たる利害関係者】
・公衆。核不拡散問題を盛んに議論している公益グループにとって本情報は有用であろう。
・公益機関。利害関係者としては、環境、安全、保健グループ、歴史家、市民活動家、研究者、科学者、産業界のひとびと、及び州政府連邦政府の人々が含まれる。核実験関連の活動を監視することに興味を持つ人々には、原子炉級プルトニウムで行われた核実験に関する追加情報をえることになろう。この情報に興味を示している公共利益機関としては以下のものがある(省略、本文参照)。
・環境問題活動家。プルトニウム関連の活動について環境監視を行っている人々にとっては、原子炉級プルトニウムの利用について付加的な情報を得ることになる。それらの公益機関として以下のものがある(省略)。

【質疑応答】
Q. 核実験の正確な核爆発出力をなぜ公開しないのか。
A. どれだけの爆発力があったかを公表することは、核拡散を目論むものに有益な情報を与えることになるということで、公表しないことになった。

Q. 核実験に使われた原子炉級プルトニウムの量は?
A. この場合、特定の情報は核拡散を目論むものの利益になるので、公表できない。

Q. 米国の核兵器に使われているプルトニウムの等級は?
A. 米国は兵器級プルトニウムを使っている。7%以下のプルトニウム240を含有すると定義されているものだ。

Q.核兵器に使う場合、兵器級プルトニウムが原子炉級プルトニウムより優れているのはなぜか。
A. 原子炉級プルトニウムは、かなり放射能が強く、兵器に使う場合ややこしくなる。

Q. この核実験が公開され通り成功なら、米国はなぜ原子炉級プルトニウムを核兵器に使わないのか。
A. 原子炉級プルトニウムは、かなり放射能が強いので、兵器の設計、製造、備蓄が複雑になる。原子炉級プルトニウムを使うと、兵器の組み立て工員の放射線被曝を軽減するため、遠隔操作装置を使うことになり、大きな出費が必要となる。兵器に原子炉級プルトニウムを使うと、軍の保守要員の放射線被曝も心配しなければならなくなる。いずれにせよ、法律(Public Law 94-415)により、ライセンスを受けた設備、すなわち商用炉、で生産されたプルトニウムを軍事用に転用することが禁じられている。

Q. 実験に使われた原子炉級プルトニウムはどこから供給されたのか。
A. プルトニウムは1958年米英相互防衛協定にもとづき、英国から供給された。

Q. この核実験に実際に使われたプルトニウムの同位体成分比は?
A. 特定の核兵器、核実験に使われたプルトニウムの同位体成分比は公開しないことになっている。情報公開することで核拡散を目論むものを助けることになる。それを防止するためだ。

【以上】

 少し、追加的コメントをしておこう。
・前回書いた今井隆吉が軍縮局に招かれ、説明を受けたのは、この内容だったと推定される。核物質が英国から供給された、との情報も符合する。今井はそれを信じなかった、というか、信じたくなかったので、この内容をそのまま、我が国関係者に伝えることなく、むしろ、正反対の結論を公表したのであった(前回分参照)。

・前回文献を引用し、「原子炉級プルトニウムの原爆実験が1962年に行われたことが、1977年に開示され、一般新聞 LATimes で報道されたこと、エネルギー省の公開ペーパーにもあるとの言及があるが、その資料は入手できずにいる」と書いたが、その公開ペーパーが、上記訳出のものであった。

1 件のコメント:

アクエリアン(略称:アク) さんのコメント...

追加して書いておきたいことがあった。
 この原爆実験に使われたプルトニウムが英国から提供されたことに関してである。アメリカでは原子力発電は完全に民間の事業として行われている。核兵器開発と製造はエネルギー省のもと、当然のことながら国家事業として行われている。民生と核開発を完全に分離するために、原子力発電と核兵器とが混在しないように厳しい一線が引かれている。原子力発電で得られたプルトニウムその他核兵器の材料物質は一切核兵器に転用しないということが厳しく規制されている。
 それゆえ米国の原発から再処理回収されたプルトニウムを,たとえテストのためとはいえ,核兵器部門が使うことはできなかった。そこで本文のQ&Aにあるように米英相互防衛協定にもとづいて、英国から提供されたものが使用された。当時英国の原発はコールダーホール型であったから、軽水炉からのプルトニウムではないが,炉型は違うが燃焼度などは十分に上げて回収されたプルトニウムが使われたことはたしかである。
 この結果をもって,米国は原子炉級プルトニウムの拡散を懸念する姿勢に転じた。また国際社会にも同調を求め、IAEAは、再処理プルトニウムが原爆材料になることを前提とする不拡散政策をとることになった。
 また米国では,民生の再処理事業を中止し、使用済み核燃料は直接処分する政策がとられることとなった。