2012年11月27日火曜日

日本は変われるか

TIME誌は活字になる量をはるかに超える記事をオンライン・アジア版に載せている。その一つ Can Japan change?   (12/10/21)を少し前に読んで気になっている。外から日本がどう見えるのか。読んだついでにここで紹介するのもお役に立とう。日本社会の現状がなぜ改革を阻み、20年間もの経済停滞を招いたのか、それからの脱却する方策はあるのか、を鋭く論じている。記事を書いた Michael Schuman は、TIME誌アジア経済担当の記者として、この日本問題をしばしば取り上げているのだが、説明しようとする度にイライラすると、記事の書き始めで告白している。日本の現状は「論理、言いかえれば人間性の基本則、に反していると思うのだが、その経済的命運が20年間も劣化するまま、ほとんど何もしないでいる。そんな社会(国)がありうるのか」。これが記者のイライラの原因だ。

問題の根源は繰り返し指摘されている。
・経済政策を担当する官僚たち→島国根性で自己利益しか追求せず、日本を改革しようとしない。改革が自分たちの権力を弱めるからだ。
・企業経営者→同様に官僚化し、コンセンサスべースでことを決める組織の中でトップに成り上がった彼らは、会社をもっと起業家精神に富んだものに変える気がない。
・政治家たち→視野の狭い有権者の要望に応えるのを優先し、国家という大きな視野での必要事項に関心がない。

日本問題を上記の方向で改めて話題にしても日本は変わらないだろう。代わりにとSchuman氏がこの記事で指摘するのは韓国との比較である。韓国は1997年のアジア通貨危機によりどん底まで落ち込んだ。それから見事に変身を遂げた。日本は、それと同様な危機に陥り、それを克服するという経験を経ないと、変わらないのではないかと思えてしまう。それほど日本問題は深刻だ。

韓国は97年のアジア通貨危機で経済が破綻寸前まで行き、IMF管理下に置かれるというどん底を経験した。ドル不足が原因だと、国民にタンスにしまっているドル札の提供を求め、人々が我も我もとドル札の提供、ドル札での買いものに必死になったニュースを思い起こす。この危機を契機に、韓国では、政治も、企業も、人々の考え方も抜本的に変革を迫られ、健全で革新的で強い経済となって生まれ変わった。政府と大企業のなれ合いや干渉の風習を一掃し、企業は起業家精神のもとに淘汰され、生まれ変わった。

日本は同様な危機を経験しないで済んできたため、政治家、企業経営者、人々のマインドがどん底から震撼されるということがなく、ぬるま湯に浸かったまま、現状を抜本的に見直し新しい体制に自ら変えようとする勇気がない。日本も一度危機に見舞われ、変革を余儀なくされるのがいいのかもしれない。

Schuman氏は、「茹で蛙」の譬えを持ち出す。蛙はいきなり熱湯に投げ込まれると、直ちに飛び跳ね湯から脱出する。ところが冷水に入れて徐々に熱していくと水温上昇を感知せず茹だって(poached)死に至る。韓国は前者を経験したが、日本は後者で、このままでは死に至るのではないか(ただし「茹で蛙」は譬えであって、本物の蛙は逆に振る舞うという)。

日本が、韓国と同様の破綻寸前の経済危機に陥れば、日本は悲惨なことになる。さらに世界経済にとっても大変な危機をもたらす。そこまで行かないうちに何とかしなければならない。何ら有効な手段をとらないでいる日本に変化の兆しはあるだろうか。Schuman氏は、日本を訪問する度にさまざまな層で欲求不満のレベルが嵩じているのに気づくという。

福島原発事故の後、原子力の将来をめぐって首相官邸周辺で行われている抗議活動が、特定の利益団体によって組織されたものでなく、参加しようとする個々人の意志によって行われていることに注目している。

また、変化への欲求の兆候が、橋下徹大阪市長を国のステージに押し上げていると見ている。国政に取り組もうとする橋下が日本社会に根付いた既成政党とどう競り合って行くかを見守りたい。間もなく行われる選挙で、草の根組織をもたない彼が大量の抗議票を得て、日本の国政を揺り動かす可能性がある。

ビジネスの世界でも変化が進んでいる。通常のキャリアパスを捨てて、自分の会社を興そうと、自ら動き、また周りの若者を説得しようとしている人々がいる。失敗を許さない日本でのやり方が、リスクをとり会社を興すことを阻んでいるが、それでも進んで既成の枠にとらわれずに考え、周りの人たちを説得する、やる気のある人たちの集団が増えてきているようだ。しかし、統計では新興企業のシェアは1990年代以降減少気味だ。もはや通用しないはずの慣行がまだ変えられずにいるからだ。

20年にわたる沈滞から日本が抜け出すには、普通でないことが普通にならなくては(the unusual is going to have to become usual) なるまい。そうならないと、日本は韓国が直面した危機に直面することになる。IMFは日本政府の財政赤字を削減する方向での政策決定者の能力を心配しはじめている。

深刻な事柄を述べてきた。日本は改革し、危機を乗り切る能力がある。できることなら変化をリードしようとする人々もいる。もっと楽観できるならそうしたいものだ。

以上TIME誌の記事を敷衍しながら紹介してきた。最初に記事の引用をリンクしたが、TIME誌の購読者でないと、本文を読めない恐れがあるからだ。Schuman氏は橋下徹市長に期待しているようだが、その部分については私は見解を異にする。

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