地震後の混乱の中にある日本を抜け出して、中東の海を航海中です。苦難の中におられる方々には申し訳ないことです。クルーズ船の甲板には、裸で日光浴を楽しむ人、プールで泳ぐ人、様々のゲームに興じる人など、東の果てにある島国に起こったこと、未だ起き続けていることなど、どこ吹く風と、優雅に船上生活を楽しんでいる白人たちでいっぱい(約2000人)です。そんな中、12人と、6人の二つの日本人グループが、少々引っ込み思案に参加しています。
日本人と知ると、地震と津波はひどかったな、大丈夫だったか、原発はどうなった、水道水が汚染しているらしいな、などと話しかけてきます。船室のテレビで見ることのできるBBCニュースは、リビアと日本の地震災害のことを大々的に伝えていますし、船内で配布される国際ニュース要約紙でも、毎日一面に大きく掲載されているせいでしょう。海外にいて、これだけ日本の情報に接することはまずありません。世界中が、地震と津波のもたらした大きな災害に、またチェルノブイリは例外として、まず起こり得ないと思っていた米国型軽水原発が閉じこめ不能に至った事故に、注目し息を呑んでいるのでしょう。
今日の昼食のテーブルで同席したスイス人夫婦は、ロシアや中国ならともかく、原発先進国として特に高い技術水準を持った日本が、こんな事故をやらかしたことは、ヨーロッパ諸国にとっても深刻だ、どの国も既存原発のこと、新規計画のことを抜本的に考え直さなければならない、と話していました。ドイツでは早速見直しの方向に行っていることはすでに伝えられています。日本でも、どの国でも、原発そのものの安全性を見直すことはもちろん、さらには原発依存度を低くした電力のあり方、もっといえば、エネルギーを大量に費消しない産業と生活のあり方まで、考えなければならない、と互いに話し合ったのでした。
まだ事故が収まっていない現在、先のことを考えるのは早いでしょうが、今度の事故の影響は計り知れないほど大きいように見えます。原子力産業や電力会社にとどまらず、日本の国の様々なセクターが、また私たちの生活自体が、大きなマイナスは蒙ることになるでしょう。どんなことになるか、まだ見えていませんが、相当な覚悟がいるように思えます。
このブログで、旅の印象を書くつもりで書きはじめたのですが、地震による原発事故の方へ、思わず気持ちが向いてしまいました。本題だった方のことも少し書いておきます。
この旅は、何ヶ月も前に計画し申し込んであったものでした。そこへ突然の地震。水戸でもかなりの被害が出ました。我が家では食器類、グラス、室内飾りの類はかなり棚から落ち、破損しました。書斎の書棚から落ち、床を埋めた本を元の位置に納めるのは大仕事です。これを機会に整理し直そうと、片付けもせず、旅行を終わったあとに仕事を残して旅立ちました。
私にとっては初めてのアラブ世界への旅です。ペルシャ湾からアラビア半島の南端を船でぐるりと回り、紅海に入って、スエズ運河を通り、イタリアまで、3週間の船旅です。
アラブ首長国連邦のドバイから始まり、首都アブダビ、別の首長国のフジャイラ、さらにオマーンの首都マスカットを見たところです。今日はオマーン沖を一日かけて航海し、明日はオマーン南部のサラーサに着きます。
中東の諸国を見て、今更ながらアラブ新興国の勢いを感じます。それは単にオイルマネーに依るものではなく、それぞれの国なりの先見性のある経済政策のもたらしたもののようです。絶対王制をとり民主主義国とは言えない国々ですが、オイルの多寡に依るというより、名君が適切な近代化策を講じ、今日の繁栄を生み出しているかどうかで国柄が違うようです。
私たちの目からすると、政治的には遅れた国のよう見えますが、それは私たちの尺度で考えたものでしょう。国によって様々のようです。西側の国、特にアメリカへの距離の取り方によっても事情は違うでしょう。王制や独裁政権のもたらす矛盾を辛うじて抑えている国、名君への尊敬の厚い国、西欧化・近代化を急ぐ国、近代化策を取りながらも伝統的価値を重んじる国。現在、問題が発生している国と全く問題がない国があります。共通するのは、どの国もイスラムを固く守っていて、その面ではゆるぎがないことでしょう。私たちには偏狭に見える宗教とも、互いの価値観を重んじて付き合っていかなければなるまいと、思ったことでした。
冒頭の写真は、オマーンの首都マスカット。アラビア半島というと砂漠のある平地かと思いきや、オマーンは草木も生えない岩山が海岸まで迫っているいくつかの入江から構成されている。とくに宮殿のあるオールドマスカット地域は、峨峨たる山々と古い砦に守られ、守備堅固な場所に華麗な王宮がある。鎖国政策を取り石油利権を王家で独り占めしていた前王に対し、王室内クーデータで政権を奪取(1970)した現王が、開明的な政策で国を開いた。近代化のかたわら伝統を尊重した進め方をしている。人々は自国のあり方を良しとして、隣のイエメンと対照的に揺るぎもしない。
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